囲炉裏とは? 設置の仕方、使い方や囲炉裏テーブルの紹介も。

日本の伝統的な住まいに欠かせなかった「囲炉裏(いろり)」。現代ではその姿を見る機会が減ったものの、火を囲む文化や空間のぬくもりは、今なお多くの人の心を惹きつけています。本記事では、囲炉裏の基本から、現代住宅における設置・安全対策、インテリアとしての活用方法まで、幅広く解説します。囲炉裏に興味のある方、導入を検討している方にとって、実用的かつ安心して取り入れるためのヒントが詰まった内容となっています。ぜひ最後までご覧ください。
記事のポイント3選
- 現代住宅に設置するには法規制と安全対策が不可欠。内装制限、換気、一酸化炭素対策など、計画段階での確認が重要です。
- 用途や住環境を考えると囲炉裏テーブルという手も。昔ながらの囲炉裏だけでなく、内装に関わる法規などを考慮すると、囲炉裏テーブルを選ぶのが近道かもしれません。
- 安全で快適な囲炉裏ライフには日々の管理と共有ルールが鍵。火の取り扱い方法や後片付け、家族全員の理解が欠かせません。
1 囲炉裏の基本を知る
1-1 囲炉裏とは?その歴史と役割
囲炉裏(いろり)は、日本の伝統的な暖房兼調理設備で、主に床を掘り下げて設けた炉のことを指します。古くは奈良時代から存在し、主に農村部や山間地の住居に普及していました。火を囲む形で家族が集い、暖をとったり、煮炊きをするなど生活の中心となる役割を果たしてきました。
囲炉裏はただの暖房設備ではなく、日本文化の象徴とも言える存在です。囲炉裏の煙は木材の防虫効果や屋根裏のすすけ止めにも利用されるなど、住まい全体に影響を与えるものでした。
囲炉裏の火は家の守り神として神聖視されることも多く、これは火の扱いに対する畏敬の念が根付いていた証ともいえるでしょう。
こうした囲炉裏文化は、生活様式の変化とともに徐々に姿を消していきましたが、近年ではスローライフや自然志向の高まりから古民家再生された方やアウトドア愛好者さんなどを中心に囲炉裏を入れたいというかたが増えてきている気がします。
1-2 現代における囲炉裏の魅力
現代社会では、暖房や調理器具は電気やガスが主流となっていますが、それでも囲炉裏には他にはない魅力が宿っています。それは「火を囲む」ということです。炎のぬくもりを囲みながら語らう空間は、機械的な暖房機では得られない人間味と落ち着きを与えてくれます。
囲炉裏の炎がパチパチと燃える音や、ゆらめく火の揺らぎにはリラックス効果があり、ストレスの多い現代人にとって貴重なリセットの時間を提供してくれます。
また、囲炉裏は非日常の演出にも一役買います。ゲストを迎える空間に囲炉裏があるだけで、どこか旅館のような落ち着いた雰囲気を醸し出します。
ま災害時には調理・暖房の両面で役立つ可能性もあり、生活インフラが断たれた時の“サブ”の設備としての機能も期待されます。
こうした背景から、現代の囲炉裏は「実用」と「趣味」の両立できるものとして、家に設置したい方が増えていきています。
1-3 囲炉裏の構造と種類
囲炉裏の基本構造は、床を掘り下げた四角い炉を中心に、その周囲に座るスペースが設けられたものです。炉の内部には灰が敷き詰められ、炭や薪を置いて火を起こします。上部には自在鉤(じざいかぎ)と呼ばれる金属製のフックが吊り下げられ、鍋ややかんなどを吊るして調理に使われます。
囲炉裏にはいくつかのタイプがあります。もっとも古典的なのは掘り下げ型で、床に直接設ける常設の囲炉裏です。これは古民家などで見られ、施工には床下の構造補強や排煙の配慮が必要です。
一方で現代の住宅に適したタイプとして「囲炉裏テーブル」や「移動式囲炉裏」が登場しています。移動式囲炉裏は卓上に囲炉裏の機能を組み込んだ形式で、設置が簡単であり、煙の排出や防火処理も考慮された製品もあります。
材質も様々で、伝統的なものは木材と土、竹などの自然素材を使用していますが、現代製の囲炉裏は金属や耐熱ガラス、耐火レンガなどが使われており、安全性や耐久性に優れています。
このように、囲炉裏はその構造や素材、設置形態により多くのバリエーションがあり、住まいの状況や目的に応じて選ぶことができます。近年ではDIYで囲炉裏を作る人も増えています。組み立てが簡単な囲炉裏キットもあるようです。
1-4 囲炉裏がある暮らしの利点と注意点
囲炉裏がある暮らしの最大の利点は、何といっても人が自然と集まる空間が生まれることです。家族や友人が火を囲んでゆったりと語り合う時間は、現代社会に不足しがちな心のつながりを育む貴重な機会となります。
囲炉裏を囲むことで、参加型の食事が可能になります。串焼きや鍋料理など、皆で一緒に調理しながら食べるスタイルは、食事の時間を単なる「食べる行為」ではなく、「楽しむイベント」へと変えてくれます。特に子どもやゲストにとっては新鮮で、会話も自然と弾みます。
囲炉裏は暖房機能も果たしますが、特に断熱性や気密性の低い古民家などでは熱効率が悪く、十分な暖かさを得るのは難しい場合もあります。暖房効果を期待するなら、囲炉裏単体ではなく住環境全体の性能とのバランスを見極める必要があります。
一方で注意すべき点もあります。まず、火を扱う設備であるため、十分な換気が必要です。特に現代の高気密住宅では一酸化炭素中毒のリスクが高まりやすく、換気扇や煙突の設置は必須といえます。
また、火の粉による火災、子どもやペットの火傷リスク、室内の壁や天井の煤汚れといった問題も考慮しなければなりません。囲炉裏を安全に、かつ快適に使用するためには、日々の点検と家族全員の正しい使い方の理解が欠かせません。
1-5 昔ながらの囲炉裏と現代風囲炉裏の違い
昔ながらの囲炉裏は、土間や板の間に設けられ、床を掘り下げて灰を敷き詰め、薪や炭を燃やして使用していました。この形は、囲炉裏の煙が天井から抜ける構造と一体化しており、屋根裏を燻すことで防虫・防腐の役割も担っていました。
昔の囲炉裏は日常の中に完全に溶け込んだ設備であり、主に暖房・調理・採光・団欒の中心でしたが、現代の囲炉裏は“特別な時間を演出する道具”として使われることが多くなっています。つまり実用性よりも情緒や演出性が重視されています。
対して現代の囲炉裏は、住宅の断熱性や気密性、建物の安全性に配慮しなければなりません。導入のしやすさなどからテーブル型や可動式で、燃焼部分が金属製のユニットに納まっているものがりようされることが多いようです。
「火を囲む」という文化的な魅力は今も色あせていません。現代の住まいやライフスタイルにおいても、実際に炎を囲んで過ごす時間を望む人は多く、その想いが囲炉裏の形を進化させ続けているのです。火を囲むという行為そのものが、今も私たちにとって特別な意味を持ち続けている証といえるでしょう。
2. 囲炉裏の設置に必要なスペースと法規制の条件
ということで、囲炉裏のある生活を思い描いた時に、直面するのは建物の内装制限です。新たに住宅にいろりを設置する場合、建築基準法施行令第129条および国土交通省告示第225号による内装制限が重要ということで、下記にまとめてみました。
1. 告示の目的
従来は「火気使用室」(キッチン・暖炉・囲炉裏等)全体を準不燃材料で仕上げる必要がありましたが、2009年の告示第225号で、火気周辺の強化+その他は緩和という形式になり、和風の内装デザインを保ちつつ安全性を確保できるように改められました。故に新たに囲炉裏を設ける場合は、これらを理解した上で設置を検討する必要があります。
【告示本文(PDFファイル)】 準不燃材料でした内装の仕上げに準ずる仕上げを定める件(平成21年国土交通省告示第225号)
3. その他の範囲、難燃材でよい部分は?
上記の可燃生成範囲のさらに外側については、
- 水平150cm以内、垂直420cm以内の範囲では、壁・天井に「難燃材料等」での内装仕上げがと求められます。
- そして150cm以上離れていれば、仕上げ材については特に制限はありません。
- 天井については、囲炉裏から420cm以上離れていれば、こちらも制限はなし。
となっています。
たとえば1階に囲炉裏を設けて、その上に天井があるような場合は下地・仕上げともに準不燃材でつくる必要があります。
蛇足ですが。だからといって石膏ボードにビニールクロスを貼る…というのでは、せっかくの囲炉裏の雰囲気が台無しですよね。木造2階建ての住宅で囲炉裏を設置するなら、法令を守りつつも、雰囲気を壊さない工夫が大事になります。たとえば、左官壁や不燃処理した木材、自然素材系の塗り壁などをうまく使って、見た目と安全性のバランスをとるのがポイントです。
5. 換気・CO対策
囲炉裏が主な熱源として使われていた時代の建物に比べて、現代の住宅は気密化がすすんでいます。現存する古民家のような建物でも、窓がサッシになっていることなどもあります。このように、現代の建物の室内で囲炉裏を使うことは、一酸化炭素中毒のリスクが大いにあります。冬場の窓を閉めた状態で使用については特に換気についてはご注意ください。吸気口からの冷たい空気の流入が気になる場合は、熱交換換気設備などの採用もおすすめです。また、一酸化炭素警報器(2,000円程度)なども併用されることをお勧めいたします。
可能であれば、美観や好みなどの検討課題はありますが、囲炉裏の真上に排煙フードや煙突を設ければ排煙は容易になります。吸気換気だけでなく、予想外の煙の排出などを容易にするための窓、そのほか換気扇の性能なども設置計画時に考えることができれば尚いいでしょう。
囲炉裏を作る場合の計画。内装のプラン例。
- 建築プラン段階で囲炉裏の位置を明確にして、45 cm/95 cm/150 cmラインを図面上に示す。
- その範囲に入る壁や天井は、不燃・難燃等の適合材料を指定し、仕様書で明記。
- 換気計画(一酸化炭素換気・警報器設置)を設計時に組み込む。
- 可動式を検討するなら、際限ない自由度がありますが、使用上の安全対策(換気・CO警報)はやはり必要です。
初めて囲炉裏を導入されるお客様にとっては、「どこまで壁を木のままにできるか」「どうやって雰囲気を壊さないで安全確保するか」が最大の関心点だと思います。囲炉裏のスペース寸法を踏まえて、以下のご提案はいかがでしょう。
- コーナー部分(45cm以内)は石やタイル、左官仕上げの不燃材を採用。
- 全体の天井や壁は、難燃処理された木材や塗り壁材で仕上げ。
- 建物全体に熱交換換気装置+CO警報器を標準装備にする。
これにより、“古民家風”の温もりある雰囲気を損なわず、法律と安全の両立が可能かなと思います
さらに、地域によっては条例や自治体の基準により、囲炉裏の設置に際して届け出や許可が必要となるケースもあります。屋外設置や商業施設での使用においては消防署との協議が必須になることもあるため、計画段階での情報収集と確認が欠かせません。
3.燃料の選び方と扱い方
3-1 燃やしているものは何ですか?
囲炉裏の燃料として一般的に使われるのは「木炭」と「薪」です。特に木炭は火持ちがよく煙や匂いが少ないため、室内使用に適しています。一方、薪は火力が高く立ち上がりも早いため、屋外での使用や短時間の暖房・調理に向いています。
木炭には「黒炭」と「白炭(備長炭など)」の2種類があり、家庭で扱いやすいのは黒炭です。白炭は高温で長時間燃焼しますが、着火が難しく換気設備のない室内では使用を避けるべきです。購入時には品質と用途を確認しましょう。
燃料の保管にも注意が必要です。木炭や薪は湿気を嫌うため、風通しの良い乾燥した場所に置くことが基本です。また、室内に大量に保管するのは避け、可燃物としての火災リスクを減らす工夫も求められます。
着火には新聞紙や着火剤を用いるのが一般的ですが、揮発性の高い灯油やアルコールは厳禁です。安全な火起こしの方法をあらかじめ家族で共有しておくことも、事故防止の大切な一歩です。
さらに、燃焼中に出る灰の処理も重要です。完全に冷めたことを確認してから処分する必要があり、火消し壺の利用や専用の金属製容器での保管が推奨されます。囲炉裏の魅力を最大限に活かすには、こうした燃料管理の丁寧さが不可欠です。
3-2 安全に使用するための注意点
囲炉裏を安全に使うためには、まず一酸化炭素中毒の防止が最優先事項です。炭火は酸素を消費しながら無臭の有害ガスを発生させるため、十分な換気と一酸化炭素警報器の設置は必須です。特に気密性の高い現代住宅では、窓を閉め切ったままの使用は大変危険です。
次に気を付けたいのが火災のリスクです。囲炉裏の周囲には可燃物を置かず、防炎マットや耐火材を設置しておくと安心です。また、囲炉裏本体の材質や設置方法も防火性能を考慮したものを選びましょう。
小さなお子様や高齢者のいる家庭では、囲炉裏に近づきすぎて火傷を負うリスクもあります。囲炉裏の周囲に柵やガードを設置することで、直接触れることを防ぎ、安全性を高めることができます。
さらに、使用中の火の管理にも注意が必要です。長時間火をつけたままにしない、使用後は完全に消火する、寝る前には必ず火を確認するなど、日常的なルールの徹底が大切です。
最後に、囲炉裏を導入した際は火災保険の補償内容を確認しておくことをおすすめします。火災原因が囲炉裏にある場合、保険の適用が制限されることもあるため、事前に加入先へ相談しておくと安心です。
3-3 使用後の手入れとメンテナンス
囲炉裏を長く安全に使用するためには、日々の手入れが欠かせません。使用後は必ず火が完全に消えたことを確認し、灰や炭を処分します。灰は専用の金属容器に移し、屋外の風通しの良い場所で保管・処分するのが基本です。
テーブル型囲炉裏の場合は、天板や金属部品の掃除も必要です。煙や油が付着しやすい部分は、乾いた布や中性洗剤を使って丁寧に拭き取りましょう。無垢材の天板であれば、オイルメンテナンスを定期的に行うことで美しさを保てます。
灰受けや火鉢部分は、使い続けるうちに劣化や変形が起きることもあるため、定期的に状態を確認し、必要に応じて交換や修理を行いましょう。耐火レンガや金属ユニットは、ひび割れやサビが生じていないかのチェックが重要です。
そして何より大切なのは、火の扱いに関するルールを家族全員で共有することです。使用前後の確認や手順を明確にし、誰が使っても安全に管理できる体制を整えておくことが、長く快適に囲炉裏を楽しむ秘訣です。
まとめ
囲炉裏は、日本の暮らしに根付いた伝統的な設備でありながら、現代のライフスタイルにおいてもその魅力は健在です。火を囲むという行為が生み出す癒しや団らんの時間は、家族や仲間とのつながりを深め、心を豊かにする大きな力を持っています。
一方で、囲炉裏の設置・使用にあたっては、現代住宅ならではの安全性や法規制への配慮が必要不可欠です。適切な換気設備、火災防止対策、使用ルールの徹底など、注意すべきポイントは多岐にわたります。囲炉裏を安心・快適に活用するためには、単なる趣味や装飾にとどまらず、暮らしに根ざした設備としての理解と準備が求められるのです。